弁護士の業務に対する妨害について
弁護士 本田 正男
千切って売りたい程あるわたしの会務(弁護士会の公益的な活動)ですが、今年度また一つ新しいメニューが増えました。日弁連の業務妨害対策委員会です。
この間日本の社会が、経済的にも停滞し、あるいは、国民全体の倫理的道徳的な意識も低下しているということなのか、弁護士の業務に対しても、様々な形で横槍が入ることが多くなったように感じています。特に、わたしのようなファミリーロイヤーの立場からすると、法的な紛争が感情的な領域にわたって拡大することの多い家族間の諍いにおいて、怒りの矛先が、当事者間だけに止まらず、裁判所や、裁判の制度、さらには、弁護士やその活動に迄及ぶこと、しかも、そういった案件の多くが露骨に女性弁護士を対象としていることにも留意されるべきだと思われます。
また、あえて書くまでもありませんが、近年においては、SNSなどのインターネット上の誹謗中傷という形態をとって攻撃が加えられる事例の多いことも顕著な特徴となっています。
弁護士にとっても、平穏で安全に業務を遂行できることは活動の基礎ですので、弁護士会としても、弁護士の業務に対する妨害を看過することはできません。特に、神奈川県弁護士会の場合、(男性会員でしたが)離婚事件を巡って、若手の弁護士が事務所内において相手方当事者に殺害されるという大変に痛ましい事件が発生したことを決して忘れることができません。
そこで、昨年この欄でもご紹介させていていただきました日弁連の両性の平等委員会や、やはり、わたしも長年所属させていただいている日弁連の家事法制委員会などにおいて、昨年来実際の被害事例について聞き取りを行うと共に、弁護士会としても、全般的な対応を行うことを求めて、協議を重ねて来ました。
そのような活動の当面の解決策が、業務妨害対策委員会の中に、離婚事件などの家族法分野に関わる弁護士の業務妨害問題を扱う専門のチームを設置するというもので、結果今年度から設置された当該のチームに言い出しっぺであるわたしもまた組み込まれたという次第です。
そして、チームの最初の作業は、アンケートによる全国の被害実態の把握で、現在は、今年度会員向けに実施したこの業務妨害に関するアンケートの結果を種々な角度から分析しているところです。日弁連では、2011年にはフランスにまで足を伸ばし、パリ弁護士会で聞き取り調査を行って、報告書をまとめたこともありましたが、当時から弁護士の業務は、どの方向から見ても、ストレスの多い仕事であること、反面、また、弁護士の業務の性質上弱音を吐くことが困難な環境下にあることといった先進的な指摘を受けていたことが思い出されます。そもそも一人一人の弁護士は、零細な自営業者に過ぎませんので、業務妨害の対応を含めて、個々の弁護士にできることには限りがあることも現実です。
昨年わたしは、この欄の結びに、今年もまた弁護士として、女性に限らず、弱い立場の人に寄り添い、せめて司法の場で正義が実現されるよう微力ながら努力していきたいと思います、と書いたのですが、そのような社会正義の実現を図るためにも、今後とも弁護士の活動の基盤を一層強固なものとし、社会の中で信頼を得ていけるよう引き続き努力したいと考えています。