川崎総合法律事務所

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借地借家関係を巡る紛争に思う

種村 求 (弁護士)

 借地借家を巡るトラブルは多く,市民法律相談等における相談件数としてはかなりの割合を占めます。 また,相談にとどまらず,紛争として事件となる件数も多く,私自身,原告側・被告側問わず,借地借家を巡る紛争について依頼を受けることがよくあります。

 借地借家の問題に関しては,特殊な場合を除いて借地借家法が適用されますが,この借地借家法の下では,借主の地位が非常に手厚く保護されております。

 たとえば,通常の借地権・借家権については,いったん設定されれば,借主が更新を望まない限り,ほぼ半永久的に存続することになります。 また,借地人又は借家人に①地代・賃料・更新料の不払,②借地権・借家権の無断転貸・無断譲渡,③無断増改築,④借地権・借家権の用法違反・保管義務違反,⑤悪質な迷惑行為等などの特別な事情がない限り,借地権・借家権の契約を解除されることはありません。

 このように借地人・借家人が手厚く保護されることにより, (1)地主・大家から不当な立退きを求められてもそれを拒絶できたり, (2)1か月だけ賃料の支払いが遅れたからといって,それだけでは契約を解除されることがなかったり, (3)借地権価格がその土地の時価の6割~7割という価値を有し,その借地権を第三者に譲渡することにより金銭に換えることができたりするなど,良い面は多々あります。

 しかしながら,他方では,地主がその所有する古い建物を建て替えて高層マンションを構築して収益性を上げようと思っても,その古い建物の借家人が明渡しを拒絶する場合には,なかなか明渡しを求めることができないため,立ち退きをどうしても求めたい場合には多額の立退料の支払いを余儀なくされるといった問題があります。

 特に,私が個人的に一番問題だと思うのは,賃料の不払を続ける借地人(借家人)が任意に土地(建物)を明け渡してくれない場合に,地主・大家が対処する手段が限られ,またその手段を利用するには非常に高額な費用が生じてしまうことです。
 賃料不払を原因として建物収去土地明渡(建物を取り壊して,土地を借地人に対して明け渡すように求めるもの)・建物明渡を裁判で求める場合,3か月以上の賃料不払が続かない限り,明渡を認めてもらえないことがほとんどです。賃料不払が続いてどうしようもなくなってから弁護士に相談に見える方がほとんどですが,弁護士が訴訟提起を急いでも,裁判の期日が入るのは訴訟提起から軽く1か月以上は先のことになってしまいます。 賃料不払を原因とする場合には,訴訟ではあまり争いなく明渡を命ずる判決をもらえることが多いのですが,それでも最初の裁判の期日から判決の日まででまず2週間はかかります。 また,判決が出たからといって直ちに借地人・借家人をその土地(建物)から立ち退かせることができるわけではなく,立ち退かせるには強制執行まで必要です。 しかも,強制執行においては,1か月以内に明け渡すように求める「催告」を経てからしか,「断行」という強制的に明け渡す手段をとることができません。

 こうして,地主・大家の方が弁護士に相談されてから,明渡完了による事態の解決までに,半年程度は普通にかかってしまうのです。 また,借地人・借家人によっては,訴訟の前に保全処分という手続まで必要な場合もあり,その場合にはさらに時間とお金がかかることになります。 もちろん,その間もずっと賃料不払が続くことがほとんどです。 しかも,強制執行をするに際しては,どうしても手慣れた執行業者に頼まざるを得ないケースがほとんどですが,執行業者にお願いする費用は通常の引っ越し等に比べかなり高額です。

 このような事態が生じてしまうのは,法律が不十分であり,また裁判所が迅速な対応をとることのできる体制になっていないことによるものだと思われますが,法に携わる一人として,何とかならないものかと思いますし,何とかしなければならないものだとも思います。

 とはいえ,そのような問題がなかなか解決できない以上は,この問題に対処するには,地主・大家のほうで自衛するしかないのが現状です。 賃料不払が多少続いても大丈夫なように保証金を多めに設定するとか,信頼できる保証人をつけてもらうとか,賃料不払が発生する前に対策をとっていればそれに越したことはないのですが,そうでない場合でも,事態を放置すればするほど賃料不払の期間が長引く以上,賃料不払が少しでも発生したならば,弁護士に相談に行くなどしてすぐに訴訟を提起するべきだと思います。 私もこのような相談・依頼を受けたときには時間との勝負という意識を持って事件にあたっております。

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