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「もしドラ」を読んで考えた弁護士の仕事について

大橋 賢也 (弁護士)

 最近「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(岩崎夏海著)というダイヤモンド社から出版されている本(以下,略して「もしドラ」といいます)を読みました。私は,恥ずかしながら,今までドラッカーも『マネジメント』もよく知らなかったのですが,新聞の書評等で面白いと評判だったので,読んでみました。

 「もしドラ」は,高校野球の女子マネージャーが,ひょんなことからピーター・F・ドラッカーの『マネジメント』のエッセンシャル版を読んで,そこに書いてあることを一つずつ実践に移していき,最終的には無名の都立高校が夏の甲子園大会に初出場するという内容の本です。主人公は,最初に『マネジメント』をヒントにして,「野球部をマネジメントするためには,まず野球部とはどういう組織で,何をするべきかを決める必要がある」と考えます。そして,野球部の定義付けで悩んだ主人公は,再度『マネジメント』に戻ります。『マネジメント』には,「企業の目的と使命を定義するとき,出発点は一つしかない。顧客である。」「顧客を満足させることこそ,企業の使命であり目的である。」と書いてあります(23頁)。また,『マネジメント』には,マーケティングについて,「真のマーケティングは顧客からスタートする。すなわち現実,欲求,価値からスタートする。」と書いてあります(17頁)。

 私は,この部分を読んで,弁護士の仕事(ここでは民事事件を念頭に置いています)について少し考えてみました。基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の仕事と組織の経営を同じ土俵で考えることができるのかよく分かりませんが,顧客である依頼者との関係や弁護士の仕事について考える上で,『マネジメント』に書かれてある上記の部分は,なかなか興味深いものがあると感じました。つまり,弁護士は,依頼者である顧客から相談を受けたときや事件を受任した際に,まず依頼者がどのような問題を抱えているのか(現実),依頼者はその問題に対してどのような解決を望んでいるのか(欲求),依頼者は問題の解決に際して弁護士に何を求めているのか(価値)を聞き出します。このとき,問題の状況や客観的証拠の存在等から,相手方と話し合いがつかない場合には最後まで戦い抜く必要があり,依頼者もその点に欲求や価値を見出している場合には,弁護士としても依頼者の欲求や価値に応えるべく最後まで全力を尽くすべきであることに異論はないと思われます。

 では,依頼者の欲求や価値が法律家の視点からは実現が難しいと思われ,かつ,その実現を求めて突き進んだ場合には泥沼に陥ってしまう可能性が考えられる場合に,弁護士はどのように対処したらよいのでしょうか。私は,この場合の考え方には大きく分けて二つあると思います。一つは,弁護士は依頼者の代理人なのだから,全てを説明した上で依頼者の欲求や価値の実現に向けて全力を尽くすべきであるという考え方,もう一つは,弁護士は単なる代理人ではなく法律の専門家なのであるから,全てを説明した上で,依頼者に対しその欲求や価値を別のところに見出すように説得し,泥沼に陥る前に問題を解決するように力を尽くすべきであるという考え方です。実際にはこのように単純に割り切れるものではなく,問題の内容や依頼者の人となり,依頼者との信頼関係の程度等によって対処方法は変わってくると思います。このことを前提にした上で,私は,弁護士は法律の専門家として,依頼者の欲求や価値を追い求めて突き進んでいった場合に予想される結果等について説明した上で,その結果が依頼者にとって必ずしも幸福なものとは思われない場合には,依頼者に対しその欲求や価値を別のところに見出すように説得するのも弁護士の大事な役割なのではないかと考えています。

 依頼者との関係や事件の処理の仕方等については正解があるわけではなく,私も日々悩みながら個々の事件処理に当たっています。そして,弁護士としての意見を押し付けるのではなく,依頼者とよく話し合い,依頼者が最後には「この弁護士に依頼して良かった」と思っていただけるように,今後も頑張っていきたいと考えています。

 なお,『マネジメント』自体は,企業を含めた「組織」の経営全般について書かれた本で,ちゃんと読めば事務所経営にも役立つのではないかと思うので,いずれ読んでみたいと考えています。

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