川崎総合法律事務所

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家事調停の有用性について

本田 正男 (弁護士)

 ~家事事件手続法の施行にあたって~

 弁護士会の推薦を得て、昨年の10月より、事務所から歩いて5分ほどのところにある地元横浜家庭裁判所川崎支部で家事事件の調停委員をさせて頂いています(普段は弁護士としての活動を続けながら、裁判所から依頼のあった特定の事件について、調停委員として裁判所に登庁しています)もちろん、川崎の裁判所に限らず、これまでも、弁護士として当事者の代理人という立場で、離婚事件をはじめとする様々な家事の調停事件に関与してきましたが、新たに調停委員という裁判所側の立場から、立ち位置と見る角度を変えて、いわば内側から手続きに関与する機会を得たことは自分自身の知見を広げる意味でもとても有益でした。就任以来1年ほど経ちましたので、今回は、その経験や感想などを書かせて頂ければと思います。

 調停事件では事件毎に、男女1名ずつ2名の調停委員と1人の裁判官、合計3名で、調停委員会という1つのチームを作って対応するのですが、この間実際に事件を担当して感じたことは、まず何と言っても調停委員の先生方の熱心さ真摯さでした。最近は家事事件の急増に、裁判所の人的物的な整備が追いつかず、特に、家庭裁判所の裁判官の不足は本当に深刻で異常な状況に陥っています。司法統計などをみますと、横浜家裁などでは、家事の調停事件だけに限っても、新しく受け付ける事件の数は裁判官1人当たりでは1年間に1,000件を超えているのが常態です。そのような途方もない数の事件を前 にしては、どれほど優秀な裁判官であったとしても、事件の内容はおろか、当事者の名前すら覚えきれないのは当然だと思います。家事事件は家族を取り巻く紛争ですから、元々人と人とのふれあいが問題の中核にある類の事件です。ですから、事件と向き合うにも、本来とても丁寧に対応することが望ましいし、また、そうしないと紛争が本当の意味で解決しないことは誰しもが感じるところです。しかし、同じ一日の中で同時に開催されるいくつもの調停事件について、そのすべてに目配せをしなければなければならない裁判官には、一つ一つの事件の当事者に極め細かく声がけをするような余裕は到底ありません。現在の調停手続の中で、当事者や関係者の気持ちに寄り添い、これに応えているのは、調停委員の先生方をおいて他にありません。

 もちろん、調停委員の方もそれぞれに個性がありますし、これまで積まれた社会経験も異なり、あるいは、当事者との世代的な認識の違いなどもでてくることは事実ですが、勉強会なので議論させて頂いていても、みなさん、ご自分の担当された事件の家族を立て直すことを通じて、今あるよりも一歩でもよりよい社会を実現したいという想いを抱かれているという一点では共通されているので、表面上の意見の違いなども、正義の実現のための手段方法の違いに過ぎないように感じられることが何度もありました。

 そして、ぼく自身にとって、さらに重要だったことは、この間自分自身で担当した事件で文字通り試行錯誤したり、お付合いの中で広く調停委員の方々の活動や考え方を見聞きする中で、次第に調停制度や、家事紛争を解決する手段としての調停手続の意義について考えるようになり、自ずからその有用性を再発見することができたということです。今年施行された家事事件の手続についての新しい法律「家事事件手続法」では、相手が何を言っているのか分からないとか、いつまで手続きが行われるのか判然としないなどといった、これまでの調停手続における利用者の不満を受けて、手続の透明さを指向し、申立書の副本の送付に代表されるような手続過程における当事者の手続的な権利の保障に重点をおいた改正が行われています。特に、審判事件については、記録の閲覧謄写が原則許可されるようになるなど、極単純化して言ってしまえば、家事事件の手続をより訴訟型の手続に近づけた改正になっています。もちろん、権利義務を明確にし紛争を決着させるためには、当事者に言いたいことをちゃんと言わせ、相手にも分かるように証拠も出してもらった上で、最後には、法と論理に基づいて裁判 官が判断するしかないということはこれからも変らないと思いますし、利用者の目線で眺めた場合に、手続の透明性がとても重要な要素になることはよく理解できます。

 ただ一方で、物事の白黒をはっきりさせることには感情的な亀裂を鋭角化させるような痛みや、紛争の長期化固定化といった副作用を伴うこともまた一面の真実です。今般の法改正では子ども手続代理人のように関係者の意向を手続に反映させるための重要な新設規定も入りました。これから新法制定の趣旨を踏まえた手続の運用にも留意しつつ、あわせて、特に、調停手続については、これまでも長い年月をかけて積み上げられてきた紛争解決の知恵について、その積極的な意味を検証し、適うならば、その技能の一層の集積と共有化一般化を図りたいと思う今日この頃です。

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