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改正刑事訴訟法について

菊池 博愛 (弁護士)

 平成28年5月24日刑事訴訟法が改正され,6月3日に公布されました。今回の改正はかなり大規模のもので刑事訴訟において数々の新しい制度が取り入れられました。
 その中でも最大の目玉は取調べの録音・録画制度(可視化)の創設です。
 これまで警察官や検察官による取調べは密室で行われ,さすがに最近は拷問まではないとは思われますが,あの手この手で自白の強制が行われてきました。現行憲法でも強制,拷問,脅迫による自白は証拠とできない旨が規定されていますし,不利な証拠が自白のみである場合には有罪にできないという規定もあります。これらの規定はみんな歴史的に取調室内で強制や拷問が行われてきたことの反省に立って作られたものです。
 今回の改正は取調べの可視化を制度化することにより,適切な取調べをを確保しようということなのですが,もともとは厚生労働省の局長が逮捕起訴された事件の過程で検察官が証拠を偽造したという事実が発覚したことがきっかけで議論されるようになったものです。厚労省の事件の前後にも氷見事件,志布志事件,布川事件,足利事件などの再審開始の決定や無罪判決が相次ぎました。また,いわゆるPC遠隔操作事件で真犯人ではない者が虚偽の自白をさせられているということもありました。
 なぜ自分がやってもいないことについて虚偽の自白をするのか,と疑問に思われるかもしれませんが,不当な取調べがなされると虚偽の自白がなされる可能性があるということは数々の事件が証明している明白な事実です。
 このような背景で密室での取調べの弊害を除去することが急務となっていたわけです。
 今回の改正は法制審議会の中の「新時代の刑事司法制度特別部会」で素案が作成されました。部会のメンバーにはえん罪事件で逮捕起訴されてしまった厚労省の元局長や映画監督の周防さんもメンバーに加わり,白熱した議論が交わされました。
 ところが結局取調べの録音録画は裁判員裁判対象事件と検察独自捜査事件に限定されてしまいました。これらは全事件の2~3%と言われています。
 しかし,国会の議論で可視化される事件の対象を広げていくことが確認されており,施行後3年後に見直しがなされることになっています。
 今回の改正は全事件における全過程の取調べの可視化を目指す上では大きな一歩と言えますので,今後の運用に期待するところです。

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